【無人島に持っていくならこの本】
手塚治虫「火の鳥」 – 高橋の場合 –

Culture

2020.02.14

盆踊りが大好きな空間デザイナー髙橋です。

さて、無人島に行ったことが無いので想像するしかないのですが、文字通り“無人”というからには自分以外誰もいないことになります。

そこでお供にしたい本ということであれば見栄を張ったり、人目を気にしたりしなくてもいいでしょう。時間無制限、スマホなどの邪魔者なしで楽しめるせっかくの環境なので、完全に“自分自身のためだけに読む本”という視点で選考しました。

選んだのは漫画「火の鳥」

趣味は読書です。と言い切れるほどの愛読家ではないのですが、40年ちょい生きてきて、何度か感動を覚えたり、その後の人生に影響を与えてくれた本との出会いがあります。
そのなかでもおそらく最も読み返した本、それが手塚治虫「火の鳥」全巻です。

ですが全巻からはどうしても一冊に絞れませんでした。
多くの方々に影響を与え、今手元にある文庫本の各巻末にも著名人の解説がありこれからこの本について文章にするのが恐れ多いのですが、自分なりに紹介していきたいと思います。

出会いは小学生の頃

小学生の頃の筆者

一番初めの出会いは小学校の図書館でした。昔話なのか未来の物語なのか、ヒーローが悪人をやっつけるみたいな分かりやすさもなく、殺人のシーンがあったり、男女の愛し合うシーンがあったり、鼻のでかい奇怪なキャラクターがでてきたり。衝撃が強すぎてあまり触れてはいけないような印象を受けました。他の生徒には見られないように読んでいた記憶があります。

今思えば、漫画であったから小学生でも読み進めることができたけれど、その分リアルに伝わりすぎたのかもしれません。でも、今後忘れてはいけない大事な事を教えてくれているような、目をそらしてはいけないことだと感じるような、そんな心の奥を揺さぶられた出会いでした。

青春時代

思春期の頃の筆者

自分が思春期を迎えると色々な欲望が湧いてきて、人からこう見られたいと思ったり、都会の暮らしに憧れたり、欲しいものは何がなんでも手に入れたくなったり。そんな時期に読んでしまうと自分の姿を見透かされているようで、一番向き合いたくない存在でした。

読んでいると他人にも思われるのも気恥ずかしく、友達が遊びに来る時は本棚の奥に見えないように仕込んだりしてました。

大人になってから

その後も、美術の学校に通った時期、デザインの仕事に関わりだしてから、と年を重ねてもふと手を伸ばして読み返してしまう。そんな魅力のある存在でした。
ですが、震災が起こった時期は、人と自然との関わり方、この国の成り立ち、これからのこと等さまざまな不安をかき消すようにこの本に手が伸びました。何かを示してくれる、そんな拠り所が欲しかったんだと思います。

大人になった筆者

読む毎に気づかされる作品の特性

今でもふと手が伸びます。
最近読んだ時はコマ割りの緻密さに改めて驚かされました。
第1巻の「黎明編」が1967年昭和42年。キューブリックの「2001年宇宙の旅」が1968年らしいのですが、映画にも劣らない、躍動感や抑揚が随所に描かれております。読み手に委ねられる物語進行のスピードや、セリフも含めての音の強弱がその工夫されたコマ割りで活き活きと感じられます。気付いた時に身震いしたほどです。

逆に「羽衣編」では芝居小屋の舞台を見る観客視線で描かれているので、コマ割りが終始完全固定です。こんなユニークさも漫画ならではでしょう。

まとめ

全巻の中で私が一番好きなシーンは、「望郷編」の主人公ロミが何世代も待ち望んだ地球に帰れず、宇宙飛行士の牧村に「星の王子さま」を朗読されながら埋葬されるシーンです。
何度読んでも必ず泣けます。一人でなければ読めない程です。

私はなぜ子供の頃からこの本を人前で読めなかったのか?

それはこの作品が“人”や“生命”の本質についてダイレクト過ぎるほどに問いかけて来るからではないでしょうか。本当に大切なものやそれに向き合っている時間は他人に見られたくないのかもしれません。

そして、どの年齢でも読み返したくなり、自分の成長過程によって気づかされる事も変化していくのだと思います。
周囲を気にせず思う存分一人で楽しめる。
無人島で読むなら、この本はうってつけの環境ではないでしょうか。

筆者近影

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