【ソザイのセカイ】 新素材と場を最大限活かした空間

空間デザインの仕事に携わっていると、ヒトの様々な感覚の影響を利用してその場を構成しているんだな、とよく感じます。視覚、聴覚、嗅覚、触覚。並行感覚や人口密度などわずかな差でガラリと空間が変化します。
中でも床、壁、天井、什器と、空間を構成するすべての場で使用される「素材」というものはとりわけ人体への影響も大きく、またその時の気分までも変えてしまうほどです。
本シリーズではそのような人を魅了してしまう「素材」とその空間や人への影響力を紐解いてみたいと思っております。

第1回目としてご紹介させていただくのは2019年の12月14日から2020年の1月13日まで、Ginza Sony Parkで行われていました企画展「Affinity in Autonomy<共生するロボティクス>」展です。
本展は昨年Sonyが出展したミラノデザインウィークの凱旋展示ということで、私にとってはとても見逃せないイベントでした。

テーマは「共生するロボティクス」

2018年のデザインウィークでは、プロダクトや空間を通して、人や生活に寄り添う新たなテクノロジーの在り方を提案した展示をされていたのですが、2019年は、人とロボティクスの関係性についての新しいビジョンを提案するというものでした。

かなりセンシティブな次元のテーマであり、表現や演出などの伝達手法によっては意図せぬ方向へ捉えらてしまう危険性もあったかもしれません。 しかし、それらを和らげ、さらには期待感をも感じさせてくれたのが、緩やかな淡いグラデーションで“気配”や“心理”“うつろい”を彷彿させてくれた、本展示会のキービジュアルでした。

平面から空間へ

会場へ到着するとまずこのキービジュアルの壁面が迎えてくれます。ところが、平面と異なるのはここが空間であるということ。自分が動くごとにグラデーションの色味が少しづつ変化します。ホログラムシールのイメージが近いでしょうか。見る角度を変えることによって暖色や寒色系統のグラデーションが常に変化します。私は体験したことはありませんが、きっとオーロラの中に入り込んだらこのような感覚に陥るのかもしれません。

さらによく目を凝らすと、この壁面は自分自身や自分の後方の背景を反射する鏡の特性をもっています。と同時に透過性も兼ね備えており、壁面のその奥の空間も見えるのです。

自分の動きや視線の変化で色味も変化し、自分の後方の写り込みと思っていたものが実は壁の奥の空間だったということも。一見だまし絵の世界のようで、方向感覚や空間の認識までもが覆される現象にすっかり没頭してしまいました。

平面のキービジュアルで感じた“気配”や“心の移ろい”のようなものの表現が、さらに空間に再現されることで、言葉では伝えきれない“感じる” “体感する”という演出の面白さを再確認しました。

新素材による効果

その場を離れられずにいた僕を見かねて、説明員の方が教えてくれました。今回使用されている素材はスリーエム ジャパン株式会社様の「3M™ ファサラ™ ガラスフィルム ダイクロイックシリーズ」という新素材のシートらしく、先ほどから感じていた色の可変性、反射性、透過性を兼ね備えた特徴があり、今回の展示テーマの表現にマッチするということで使用されたようです。

展示はその後2フロアにわたり<意識><協調><自律><共生><連帯>と徐々にロボティクスの感覚が高度なものとなっていくのですが、各エリアのほぼ全ての壁面がそのシートの壁で区切られ構成されていました。
単なる壁で区切るのとは違って見えるのがこの素材の面白いところで、反射しつつ透過する壁なので、隣接するエリア側の壁面が視界に入ると今いるエリアの展示内容が写り込んでもいるし、うっすら隣の展示空間も感じられるとう境界が曖昧になる効果がありました。
それぞれのエリアのテーマが独立し分断されるのではなく、ロボティクスと人間の関係性が進化していく過程を感じることができました。

シンプルな構成による効果

高度なテクノロジーや未来を感じる先進性をテーマにした演出は、大画面の映像や誰しもが驚くような壮大な演出に頼ってしまいがちですが、今回の空間構成はいたってシンプル。(もちろん裏側では緻密な検証をされていると思います。)この可変性のあるシートを貼ったアクリルの板を吊り下げ、演出用の照明を当てているだけなのです。この壁でエリアを区切り、空間に異次元のような感覚を起こし、非日常へと没入させているのです。

私は何度かこの会場のイベントには来場したことがありましたが、ここまでこの場が変化したのを見たのは初めてでしたし、この素材のみでいくという演出の潔さに改めて素材の持つ面白さや可能性を感じさせられました。
Less is Moreという言葉のように、今展のようなセンシティブで高度な内容はシンプルな構成だからこそ、より来場者へ多くを感じ取ってもらえる効果を発揮できたのかもしれません。

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